PV?そんなの追いかけませんーーメルカリに人を集めるオウンドメディア「メルカン」、運営の仕組みとその成果(後編)

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2周年で六本木ヒルズに移転した頃のメルカリ社内/山田進太郎氏

前編ではメルカリの情報発信の強さとその成果について過去記事を中心に考察してみました。創業期は社会とコミュニケーション取ることで信頼と期待感を生み出し、チーム拡大期には多様性のある情報発信で、幅広い人たちの共感を得ることに成功しています。

結果としてメルカリには5年ほどで800名近くのチームが生まれました。

後半となる本稿ではもうひとつ、彼らの展開するオウンドメディア「mercan(メルカン)」を中心にその目的や効果について考察したいと思います。取材にあたっては同メディアを立ち上げた松尾彰大さん(現在の所属はメルペイのHR)とメルカリHRグループの福岡夏樹さんにお話をお伺いしました。共に広報ではなく、人材採用のチームに所属しているのがポイントですので頭の片隅に置いておいてください。

分散する企業の「ナレッジ」を人事の視点で資産化する

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オウンドメディア事例:エン・ジャパン運営のCAREER HACK

考察に入る前にオウンドメディアについて少し整理します。定義自体は非常に幅広く「企業が自社で運営する外部公開メディア」というのが最大公約数ですから、古くは社長ブログやテックブログ、最近ではWantedlyを使った採用広報的なコンテンツもオウンドメディアのひとつの形と言えます。

かなり凝った作りのものとしてはリクルートの「HRナビ」やエン・ジャパンの「CAREER HACK」のように、ニュースメディアのような第三者視点で編集しているような例もあります。ちなみにメルカンを立ち上げた松尾さんは新卒でエン・ジャパンに入社してCAREER HACKの運営を担当された方で、メルカリには2016年3月に参加されています。

さて、ではメルカンはどういう方向性のオウンドメディアなのでしょうか?私はメルカンがリリースされた当時、小泉文明さんに取材してこんな内容を残していました。

「メルカリでは勉強会やイベントを開催したり、個人で書籍を書いたりそれぞれアウトプットしてるんですよね。でもそれがバラバラになっていて勿体なかったので、一つにまとめてメディアにしようと」(小泉氏)。

当時のメルカリは250名ほどで絶賛拡大中の時期でした。2016年ですから前編で書いた通り、拡大はもう織り込み済みで、それよりもバラエティに富んだ人材や企業などにアプローチする必要が出てきている時期です。企業のアクティビティが広がる中、こういった社内ナレッジの整理はごく自然なのですが、重要だったのはそれを採用チームが担当した、という点です。
当時の記事にもこのような感想をメモしています。

会話する中で面白かったのは「人事がブランディングできるメディアを持つべきだ」という考えからこのオウンドメディアが立ち上がったという経緯だ。通常、こういうメディアは広報だったりマーケティング関連が主導(SEO的な側面も)するのが多い印象なのだが、これは少し新鮮だった。

立ち上げに際し、松尾さんと小泉さんはメディアの方向性としてこのような点を挙げていたそうです。

  • 採用にコミットしている企業だからこそメディアを持つべき
  • 毎日更新。最悪(松尾さん)一人でも回せる
  • 点在する情報を集約、採用候補の方に「ここを見ればメルカリがわかる」
  • PVは共有するが追わない、コンテンツのNGや社員へのシェア強要をしない

気になるKPIや成果の設定ですが、これについては非常にユニークで「入社した方のメルカン既読率100%」が設定されているという説明でした。入社側も採用側もここをハブにして最低限の情報共有をしておきましょう、という考え方は大変効率的です。

それ以外にも入社後にメルカンで読んだ印象とのギャップをヒアリングし、自己満足的なコンテンツや期待値を上げすぎるような話題については調整をしているという話でした。

採用をインセンティブにーー「社内コミュニケーションツール」としてのメルカン

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スタートした当時のメルカン。1本目の記事タイトルから採用へのコミットが理解できる

社内外に分散する情報をまとめて、これから参加しようという人材とのコミュニケーションにメディアを用意する。成果は採用コミュニケーションの効率化であり、盲目的な目的外の従来指標は追わない。

ここまではわかりやすいオウンドメディアの成果だと思います。ではもうひとつ気になるポイント、どうやってこれを運営しているのか?という疑問に移りたいと思います。

ちょっと話はズレるんですが、私たちのような取材者は比較的、見知らぬ方とコミュニケーションしやすい立場にあります。メディアに信頼さえあれば、取材の申し出に対して門前払いというのはあまりありません。

メルカンはまさに社内に対してそのポジションを得ている様子でした。

ただ、私たちの取材では第三者視点での情報発信が目的になるように、情報を出す側は社内活動とはいえインセンティブがなければ動きません。そこで重要になってくるのが「採用」です。

メルカリは前述の通り、800名近くの約半数が社員による紹介という実績が語る通り、「全社員採用コミット」という共通認識が強く浸透しています。その手法のひとつとして情報発信が手軽にできるメルカンはひとつの「採用装置」として機能するわけです。

現在、編集を担当している福岡さんの元には採用に困っているのでメルカンにこういう露出がしたい、企画を考えて欲しいなどの相談が舞い込んでいるそうです。こういうわかりやすい共通目的があるメディアは強く、社内に対して「情報発信することは、結果的に自分たちのチームを強くする」というビジョンを示すことができます

リーチについても経営陣をはじめ、この企業には国内を代表するシリアルアントレプレナーや実力ある人材がマネジメント層に揃っています。彼らがソーシャルメディアでシェアするだけで「火種」は十分です。

結果的に松尾さんと小泉さんが約束した「毎日更新するメディアをつくる」という目的は達成されたわけです。メディアを運営する身として、この毎日更新というのはひとつの基準で、ややもすると外注に頼りがちになる部分を自社内にスキームを作って実現した手法は参考になると思います。

どういう人材がオウンドメディアに必要なのか

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メルカンを立ち上げた松尾彰大さん(写真右/現在の所属はメルペイのHR)とメルカリHRグループの福岡夏樹さん(写真左)

考察の最後は担う人材についてです。松尾さん、福岡さんはお二人ともメディアのバックグラウンドを持っている方々です。特に福岡さんは以前、nanapiでコンテンツ制作に携わり、ログミーを経てメルカリに参加した「編集者」です。彼女はメルカンの参加についてこんなことを話していました。

「メディアの仕事をやってきて編集というスキルを活用したいと考えたのがきっかけでした。ただ数を生産するだけの作業に疑問があり、明確にゴールがある、積み上げて形になるものを手掛けたかった」。

福岡さんのような編集者、書き手というのは読む相手のことを考え、切り口を作り、情報を収集して組み立てる情報整理のプロです。メルカリのように技術的にも複雑で、展開も多岐に渡る場合、そこにある人や資産の情報をいかに整理して必要な人に届けるかという課題には高度な技術を必要とします。

更に言えば、読み物としてつまらなければ広がりません。ここも編集者としての腕の見せ所になります。福岡さんはいいところばかり見せるのではなく「今ダメと認識している箇所を聞き出してどうやって次に繋げるか」「できるだけ公開できる数字を聞き出す」などのポイントを持っているそうで、これらは私たち第三者視点にも通じる部分です。

社内でありながら、客観的に情報を整理する。こういった技術や素養を持つ人がオウンドメディア運営には必要と感じます。

ということで前編、後編に分けてメルカリの情報発信の姿勢や手法について考察してみました。特に創業期のスタートアップにとって人の採用や社会からの信用、期待値の獲得というのは重要な仕事のひとつです。

メルカリが辿った道のりは全て真似することはできないかもしれませんが、本稿から何かヒントになる箇所がお伝えできれば幸いです。

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